クリスマスより少し前、迫り来る年末を追い返しそうな勢いで風邪が流行っていた。そして、俺も風邪っぽかった。「ロックっぽいもの」がロックではないように「風邪っぽい俺」も風邪ではなかった。しかし、ギリギリ持ち堪えているとはいえ、なんとなく体がだるいし、頭も働かない。年末年始というと楽しげなイベントも多いので、なんとか健康になりたいという思いで、栄養のあるものを食べようと思った。
外出すると疲れるので家で食べることにしたが、料理に精を出しすぎて疲れてしまっては元も子もないので、なるべくストレスなく、なるべく簡単に作るということをテーマにした。そのため、買い物には行かず、冷蔵庫にあるものを使って作ることにした。また、何かのレシピを見て作ると「そんな調味料を常備してるやつはいない」とか「少々ってどのくらい?」というストレスが発生する恐れがあるため、レシピを調べずにオリジナリティを発揮することにした。
冷蔵庫を開けてまず、うどんを買っていた一昨日の自分に感謝した。こういう時はうどんに限るのだ。あと玉ねぎとチューブの生姜があった。よし、これで栄養はほぼ全種類摂れる。
お湯を沸かしてうどんの説明書を見ると、推奨茹で時間が12分だった。うどんの説明書を二度見したのは初めての経験だった。12分というのは最寄りのコンビニに行ってどん兵衛を購入してお湯を入れて帰ってきて食べ終わるほどの時間であり、うどんを茹でるだけで12分も使うなんていうのはとても優雅な貴族の休日だ。この常識では考えられないほど長い茹で時間以外は特にトラブルもなく、普通にうどんを作り、食べた。
次の日も俺はうどんを作った。昨日使った玉ねぎの残りに加え、冷凍庫の奥でカチカチになっていたなにかしらのキノコを発見した。これはかなりの栄養だ。冷凍庫の奥底にキノコを隠した過去の自分へ、ありがとう。そして俺は2日目にしてすでに慣れた手つきでうどんを茹で始めた。茹で時間が12分であることにも驚かず、途中で玉ねぎ(今回はきのこも)を鍋にぶち込み、茹で時間が残り4分くらいになったところで鍋のお湯を少なくして、出汁や麺つゆを適当に入れるというテクニックも得ていた。こうすることで、どんぶりに移さずに鍋のまま食べることができる。しかし味見をしてみると、ちょっと味が薄い。お湯が多かったのかめんつゆが少なかったのか。昨日と比べようとしても昨日の分量は覚えていない。しかも麺つゆはさっきちょうどなくなった。どうしたものかとまた冷蔵庫を物色して、醤油を入れたりほんのちょっと味噌を入れたりして、ものすごく美味しいわけではないけどなんとかそれなりの味のうどんを作って食べた。
次の日もうどんを作った。お湯を沸かしてうどんを茹で始めた。もう3日目ともなればベテランだ。残り4分くらいでお湯を少なくして、もう麺つゆはないので醤油とか出汁をちょっと入れて、なんとなく今回は味噌を多めに入れてみた。しかし麺つゆを全く入れてないのが理由なのか、まだ味が薄かった。もうめんどくさいのでここから先は味噌だけで勝負することにして、味噌をどんどん入れた。普段味噌汁を作らないので味噌の適量ってよくわからない。これじゃ味噌汁になっちゃうよ〜?と思いながらも、結構たくさん味噌を入れた。
結果的にはすごくおいしいうどんが完成した。麺つゆを使ってないのでちょっと普段とは違う味付けだったけれど、とても元気が出そうな味だった。自分の臨機応変な対応を褒めてあげたいくらいだ。いろんな制限があったおかげで、この世に新しいメニューを生み出してしまった。やはり俺はとてもクリエイティブな人間だ。発明家だ。創造主だ。
食べ終わって気がついた。あれは「味噌煮込みうどん」だ。その料理はすでにこの世にあった。
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(次回は2/10に更新予定です。)