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#11【日記”あ”】

  • オクマサハル
  • 5月12日
  • 読了時間: 3分

 あるところに楽しい夜があって、実は俺もそこにいた。ビビンバクラブというバンドがパーティをやるというので、お腹が空かないようにカバンいっぱいに丸のままのチヂミを詰めて出かけたつもりだった。「つもりだった」というのは、到着してカバンの中を見てみたらカバンの中身はチヂミではなく大量のレコードだったから。いずれにせよ丸い形であることに違いはない。仕方がないのでバンドの演奏の合間にレコードをかけ続けていたら、不思議とお腹は空かなかった。お腹が空かなかった本当の理由は、レコードをかけ続けていたからではなくてビールを飲み続けていたからだということに気づいたのは次の日の朝だった。しかし普通日記というものは同じ回で次の日にはいかないものなので、行かない。俺は普通の人間だ。ちぇっ。


 その日DJは3セットやった。最初のセットは外でタバコを吸っていたら始まっていた。時計を見ていなかったのである。遅延ギャングである。パーティ会場へ入ると、すでに自分のDJが始まっているという不思議な経験をした。最初にかけるレコードをセットしていたので、誰かがそれをかけてくれたのだ。それはブラム・チャイコフスキーという人の『Robber』という曲だった。せっかく誰かがレコードをかけて俺の失態をカバーしてくれたというのに、泥棒呼ばわりは酷い、と人混みをかき分けながら思った。これからはちゃんと時計を見よう、と人混みをかき分け終わる頃に思った。


 第2セットは、しっかりと開始前にターンテーブルまで辿り着くことができた。時計を見ていたのが良かった。直感的な選曲もけっこうハマったと思う。しかし途中、ターンテーブルの操作を忘れたせいで失敗があった。DJ初心者であることがバレそうになったが、ほとんどの人はこっちを見ていなかったのでバレなかった。自分の中では悔しい気持ちのメーター「悔指数(くやしすう)」が上昇した。悔指数が上昇したために顔が赤くなったのか、ビールを飲んだせいで顔が赤くなっているのかは分からなかった。分からなかったというか、本当はそんなこと考えてなかった。悪いけど「悔指数」なんていうものはその時はまだ思いついてなかったわけだし、鏡を見てないので顔が赤いことにも気づいてないわけだし。どうせビールのせいなわけだし。


 そして第3回目のセットはターンテーブルの操作も思い出してきて、一番楽しくできた。踊り狂っている奴らが数人いて、気持ちが良かった。他人の曲を再生して、他人が踊って、自分が気持ち良いなんて知らなかった。どういう連鎖なんだこれは。


 その日演奏していたバンドはみんなかっこよかった。自分はお客さんでも出演者でもなく、というよりも、お客さんでも出演者でもあり、物理的にも立場的にも斜めから見るライブは少し不思議な気持ちだった。パーティ中、40%くらいはお客さんのことを見ていた。みんな良い顔をしていた。2種類に分けるとすれば、目を開いてる人と目を閉じてる人がいた。目を開いてる人の眼球はキラキラしていて、閉じてる人のはまぶたに隠れていて見えなかった。どちらにせよ、お客さんもかっこよかった。音楽は斜めに聴くものではないと学んだ。耳は傾けても、音楽はまっすぐに聴くものだ。

 もし読んでいて何か思うことがあったり、書いて欲しいテーマがあるという方は、このHPの問い合わせフォームからお気軽に送ってみてください。書けたら書きます。

(次回は5/26に更新予定です。)

 
 
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