#9【にょろき】
- オクマサハル
- 4月14日
- 読了時間: 2分
「にょろき」という言葉がある。いや、ない。ないから使っているのである。にょろきには意味がない。ないから使っているのである。誰もにょろきを知らないが、私はにょろきを知っている。誰も知らないから、使いたいのである。
にょろきには用法がない。他のどの単語とも接点を持たずに、単独で存在している(存在していないとも言える)。「それはにょろきだね」とか、「昨日のにょろきなんだけど」といった具合に文章の中に混ざることはできない。
何も言うことが思いつかない時「にょろき」と声に出してみる。「にょろき。」と言う時もあるし、「にょろき、」と言う時もある。楽しい時は「楽しいなぁ」と言えば良いし、空腹なら「腹減ったなぁ」と言えば良い。しかし、その時の感情に当てはまる言葉が見つからない時はどうすれば良いのか? 「にょろき」と言えば良い。
にょろきは意味を持たない。意味以外も持たない。何も持たない。見えない。触ることもできない。写真には映らない。美しさもない。自主的に破滅的で、全方向に差別的で、とても静かだ。
私はこの文章を書くことによって「にょろき」が定義されるのが怖い。そして、みんながにょろきを知ってしまうのが怖い。こんな文章を書いたら「にょろき」という言葉が意味を持ってこの世にしっかりと存在してしまうかもしれない。でもたぶん大丈夫だ。にょろきにはあまりにも意味がなさすぎる。世界中の人がこの文章を読んだとしても、誰もにょろきを知らないだろう。なぜなら元々にょろきなど存在しないのだから。誰もにょろきを知らないが、私はにょろきを知っている。
いま私は軽めの二日酔い。ただ椅子に座ったまま数時間何もしていない。あえて革ジャンを着て、身体を縛り上げることで人間の形を保っている。にょろき。
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(次回は4/28に更新予定です。)